相続税の申告は必要?不要?判断のポイントについて

相続が発生したら相続税を支払うことは知っているけど、詳しくはわからない。自分の場合はどうなるのだろう。と不安になり、ご質問を受けることがあります。そもそも相続税はどのような場合に発生するのでしょうか。

今回は相続税の申告義務についてご説明していきたいと思います。

 

【目次】

1.相続税の申告が必要な場合

(1)遺産額とは?

(2)基礎控除額とは?

(3)相続税の申告を実際にするのは、財産をもらった人

2.相続税が発生しなくても、申告が必要な場合

(1)小規模宅地等の特例

(2)配偶者の税額軽減

3.まとめ

 


 

1.相続税の申告が必要な場合

国税庁が公表している統計によると、令和2年度分の相続税の申告件数は、死亡者数に対して8.8%(全国)です。亡くなった方全員に相続税がかかっているのではありません。相続税が発生するのは、遺産額が基礎控除額より多い場合です。

・相続税の申告義務がある場合

(例)遺産額5,000万円 > 基礎控除額 3,600万円(相続人1人のケース)

・相続税の申告義務がない場合

(例)遺産額2,500万円 ≦ 基礎控除額 3,600万円(相続人1人のケース)

被相続人の遺産額が基礎控除額より少ない場合、相続税が発生せず、基本的に申告の必要はありません。
「遺産額が基礎控除額を超えると申告が必要になる」と覚えていただければと思います。
では、「遺産額」や「基礎控除額」とは何でしょうか。順にご説明していきます。

【関連リンク】国税庁 令和2年分 相続税の申告事績の概要 (令和3年12月)

 

(1)遺産額とは?

下の図をご覧ください。

相続税のしくみの概要図

【関連リンク】国税庁タックスアンサー No.4102 相続税がかかる場合 2 基礎控除額と正味の遺産額 より

 

遺産額は、①相続や遺贈によって取得した財産+②相続時精算課税の適用を受ける贈与財産-③非課税財産-④債務-⑤葬式費用+⑥相続開始前3年以内の贈与財産により求めます。①には、死亡保険金・死亡退職金などのみなし相続財産を含みます。単純にいうと、被相続人から取得した財産(プラスの財産)から債務(マイナスの財産)を引いた額が遺産額ということです。

実際には、現金や預貯金など財産の価値(評価額)がすぐにわかるものばかりではなく、不動産や非上場株式といった財産の価値を計算するルールが複雑なものがあります。

 

(2)基礎控除額とは?

基礎控除額は「3,000万円+(600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。

  • 基礎控除額の早見表
法定相続人数 0人 1人 2人 3人 4人 5人
基礎控除額(万円) 3,000 3,600 4,200 4,800 5,400 6,000

 

「法定相続人の数」は、民法の規定による相続人の数をベースにして、下記の相続税独自の考え方も取り入れて求めます。

①相続の放棄があった場合には、その放棄はなかったものとする。
②養子がいる場合には、一定の人数制限がある。

例えば、相続人が配偶者と子3人(実子1人、養子2人)の場合
民法上の相続人は4人ですが、相続税法の法定相続人の数は3人となります。基礎控除額は、4,800万円です。

余談ですが、基礎控除額は平成27年1月1日以降から現在の金額になりました。それ以前(平成26年12月31日まで)は5,000万円+(1,000万円 × 法定相続人の数)でした。例えば、法定相続人3人ですと改正前は8,000万円でした。改正によって3,200万円減額されました。この基礎控除額の引き下げにより、改正前は4%台で推移していた申告数が改正後は8%台まで増加し、当時大きな話題になりました。

【関連リンク】国税庁タックスアンサー No.4152 相続税の計算

【関連リンク】財務省 相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料

 

(3)相続税の申告を実際にするのは、財産をもらった人

遺産額と基礎控除額についてご説明しました。なお、実際に税務署に相続税を申告をする人は、「被相続人の遺産額が基礎控除額を上回り、かつ、遺産を受け取った人」になります。たとえ相続人だったとしても財産をもらわない人は申告不要です。逆に相続人でなくても、遺言書により財産をもらう立場になった人は申告の対象になります。

 

2.相続税が発生しなくても、申告が必要な場合

上記1のとおり、相続税の申告義務があるのは「遺産額が基礎控除額を上回り、かつ、遺産を受け取った人」です。これは、支払う税金があるので申告するケースです。これ以外に申告が必要な場合があります。「特例を適用したことにより遺産額が基礎控除額を下回り、相続税が発生しないケース」「特例を適用したことにより、相続税が結果的に0円になったケース」です。

前者で代表的なものが、「小規模宅地等の特例」、後者で代表的なものが「配偶者の税額軽減」です。

 

(1)小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、被相続人の宅地等について、居住用や事業用として利用している場合に、一定の要件を満たした親族がその宅地等を相続した場合にその宅地等の評価額を50%~80%減額できる制度です。

【関連リンク】国税庁タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 

(2)配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは、被相続人から配偶者が取得した遺産が、1億6,000万円(もしくは法定相続分まで)であれば、配偶者には相続税が課税されない制度です。

【関連リンク】国税庁タックスアンサー No.4158 配偶者の税額の軽減

 

これらの規定は、税金を下げる効果が高いものです。規定の要件をよく確認し、適用する場合には、相続税の申告を忘れないようにしましょう。

 

3.まとめ

今回は、相続税の申告義務についてご説明しました。相続人の申告義務の判定には、①遺産額の把握②相続人の把握が重要です。

なお、相続税の申告義務の有無にかかわらず、亡くなった方から引き継いだ財産の名義変更は必要になります。現在、名義変更に期限はありませんが、後々のトラブルに繋がる恐れがありますので、できる限り早いうちに行いましょう。

 

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●関連法令
・相続税法第11条
・相続税法第12条
・相続税法第13条
・相続税法第14条
・相続税法第15条
・相続税法第19条の2
・相続税法第21条の9
・相続税法第63条
・租税特別措置法第69条の4